2016.08.04

月刊ホテル旅館9月号「十九代続く歴史の宿」佐久鯉料理発祥の宿 佐久ホテル


長野県佐久市岩村田は、中世は城下町として栄え、武田信玄によって信濃と甲斐・下野を結ぶ交通の要所として重要視された歴史を持つ。中山道六十九次の22番目の宿場町で、
本陣はあったが大破し、その後は再建されなかった。昔から8軒の宿屋があったが、現在はっきりした歴史の中で、正長元年(1428年)に創業し、領主の接待役を果たして
きたのが現在の「佐久ホテル」である。その頃より、皇族や各国大名、高僧や神職、葛飾北斎・小林一茶・若山牧水・北原白秋など多くの文化人などが逗留したこと、犬飼毅首相
の講演会を行うなど歴史と共に時代を歩んできた宿であることが記された年表が平成21年に見つかった。
佐久といえば鯉料理が有名であるが、延享三年(1746年)1月6日伊勢神宮福嶋鳥羽大夫へ鯉料理を献上したのが、その時の当主篠澤佐吾右衛門であり、佐久鯉料理の始
まりといわれ1月6日は「佐久鯉誕生の日」となった。宿の名を「佐久ホテル」としたのが、明治17年に明治天皇専用の宿泊室を作ったのがきっかけである。その当時は敷
地内に「晩香桜」「太米楼」「御料理さた」「篠澤旅館」「佐久公会場」「旭湯」など多くの建物があった。酒造所もあったそうだ。
敷地面積約10,000㎡の中に、鉄筋コンクリート造4階建て約3000㎡の本館と、約3,00㎡の別館を昭和60年に建ててからリニューアルを繰り返し現在に至る。
また、当主は、出雲大社佐久之宮講社長でもある。なお、室町時代より代々引き継いだ神具等が保管された、「神蔵」は江戸時代の建物で、多くの古文書などが保管されている。
敷地内には「割烹篠(ささ)」も併設されている。19代目の篠澤(ささざわ)明剛(あきたけ)社長は、「当館は江戸時代“郷(ごう)宿(やど)”を仰せつかっていました。明治の
初期まで続き、当時の郷宿は裁判官の役目も務めていたそうです。長野県では最も古い企業として明治15年に会社制度にし、明治17年より“佐久ホテル”に改名しました。
先代の父も、私も帝国ホテルに勤めて宿泊業を学びました。現在長男も帝国ホテルに就職したので、3代に渡りお世話になっています。」
と言う。長野新幹線佐久平駅より、1km車で2~3分、岩村田駅からは約500m徒歩7分、上信越道佐久インターより1.5kmの交通の便の良い立地である。
和室12室、シングルの洋室8室とツインの洋室2室の全20室のほか、120畳の大広間、60畳と20畳の中広間が2部屋ある。出雲大社佐久之宮講社であるため、昔から
結婚式などが多く、広間の必要性があった。現在は結婚式も年間で2~3組になったが、地元の冠婚葬祭や忘新年会などの需要は多い。他に「栗林庵」と名付けた食事処と「炉端」
と名付けたロビーがある。フロント脇には佐久地方で古くから神事・仏事に使われる「天茶」(甘茶)と、地下10mから涌く硬度の高い天然水がある。天茶は周辺の野山や
当館の庭で採れるアマチャの葉を醗酵・乾燥させ手作りしている。バリアフリー対応は玄関周りでは整っているが、階段もあるため昇降機を手摺に付けて対応している。
温泉は「旭湯」と名付けられた武田信玄公も入浴した長野県最古の温泉で、源泉は浴槽の地下1mから湧き出しており、そのまま浴槽に注がれている。浅間山からの火山灰が
蓄積した地層を通ってきた水が温泉となってこの地で湧出し、以前は40℃を越える温度であったが、現在は22~23℃のメタケイ酸を主成分とする中性低張性冷鉱泉である。
無色で湧き出るが、しだいに茶褐色となる湯で、日によって色が変わるそうである。「旭湯」の云われは、武田信玄公が逗留した際、賜った直筆の掛軸の中軸に水晶が使われて
おり、その水晶の一本棒を覗くと「旭」が見えるからである。源泉を加温・半循環して利用している。男女それぞれに浴槽があるが、大きさが違うため宿泊客の男女比に応じて
使い分けている。別館の8室には浴室も付いているが温泉は引いていない。日帰り入浴は現在準備中である。
部門別の売上比は、宿泊10%・飲食90%と割烹旅館的な構成比である。創業時から藩主・大名などの接待や佐久鯉料理発祥や神前献上料理の文献があることからも飲食が
中心になる歴史を持っている。宿泊客の客層は、冠婚葬祭も多いことから親族・家族客が50%以上であり、続いてビジネス利用、合宿客となり、2名客は少ない。リピーター率
は50%前後で、慶応大学野球部は大学設立当初より毎年訪れる。平均客室稼働率は70~80%と高く、オンシーズンとオフシーズンはないに等しい。また、連泊客が多いのも
特徴である。7月から8月にかけては高校・大学の合宿で賑わうが、年間を通して平均的な稼働率を維持している。
発地は関東エリアが多く、群馬・埼玉・東京・神奈川と続き、県内は長野・松本・上田・飯田と続く。遠方は稀であるが、「大名料理再現プラン」を楽しみに北海道より訪
れる客もある。外国人は5月に北欧から40~50名が毎年訪れるくらいである。
エージェントはネット系のみで、10社程度と提携はあるがじゃらんネット・楽天トラベルの2社からの送客が80%を超え、残りはリピーターなどの直客である。
宿泊料金は、圧倒的に1泊朝食付き(B&B)が多く、6,700円(税・入湯税別)で、1泊2食の宿泊客は20%前後である。夕食は3,000円から受け付けるが、
6,000円のプランがお勧めである。料理は地元食材にこだわりを持っており、江戸の将軍に献上された臼田米・佐久高原の野菜・鯉・信州サーモン・信濃雪鱒などで、他には
自家製の天茶・ よもぎ焼酎・ヤギ乳のアイスクリームとオリジナルワイン「高原の泉」などである。基本的には食事処での提供となるが、希望によっては部屋出しも行っている。
また、ランチも「割烹篠(ささ)」で行っており、本館では個室対応で応じている。佐久鯉、鰻、川魚料理が人気である。「佐久鯉料理は、当館が全国で最初に提供した料理で、
今でも1月6日や献上料理の際は「式包丁」の儀式を執り行っています。また、岩村田の祇園祭では、「祇園振舞の儀」が当家に伝わっており、重要無形文化財に指定されて
います。当家とこの地に伝わる伝統を守って行きたいと思っています。」
と、篠澤社長。スタッフは、篠澤社長と女将のお母さん・若女将の奥さんの家族3人と、板場の3名の正社員、30名のパート・アルバイト・外注で客室係り、接客、調理補助、
ドライバーの仕事を行っている。福島の震災被害者で当館に逗留し、現在はボランティアで仕事を手伝ってくれている方もいる。「我が家の14代目が定めた家訓に、『他業種に
は手を出さない』との項目がありまして、私で19代続きました。20代目もホテル修行をしていますし、高校生の長女も接客を手伝ってくれます。家業に専念し伝統とプライドと家訓を守りぬくことが定めと思っています」
と、600年近く脈々と続く旅館業を大切にする篠澤社長なのである。



 
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